2025.07.31

タイ豆知識

タイの移民事情|ミャンマー・ラオス・カンボジアからの移民と課題

タイは、カンボジア、ミャンマー、ラオスの3カ国(CML3カ国とも呼ばれる)に囲まれ、この3カ国から多くの移民がきています。
今回の記事では、ミャンマーからの移民の事例を中心に、移民がタイとタイ経済に及ぼす影響についてまとめます。

タイ国内の移民の現状

タイ国内にいる移民の数は以下のようになっています。【出典:IOM Thailand Migration Report 2024

登録済み移民労働者:約290万人
労働許可証またはMOU(覚書)に基づき合法的に就労している者を指します。

未登録・非正規移民労働者:約200〜250万人
密入国、期限切れ、雇用主未登録などいわゆる不法移民とされる人々です。

難民・庇護申請者:約9万人
主にミャンマーからの越境者。UNHCR登録者も含むが、公式には「難民」として認定されていません。

総移民数は約500〜580万人にのぼり、これはタイの総人口(約6,600万人)の7〜9%を占める割合です。
移民のうち約7割がミャンマー出身とされており、移民問題の中心的存在となっています。

 

タイの制度と難民問題

タイは1951年の「難民の地位に関する条約(UNHCR難民条約)」に未加盟であり、国内法にも難民認定制度は存在しません。
そのため、どれだけ明らかに「避難を余儀なくされた人」であっても、法律上は「不法滞在者」または「非正規移民」として扱われてしまうのが現状です。
つまり、タイには「難民はいない」ことになっているのです。

移民の存在の影響

この移民の存在は、タイの社会や経済に多くの影響を及ぼしています。

1. 労働力の依存
タイは日本と同様に、少子高齢化と農村人口の高齢化に直面しており、年間で最大約50万人の労働力不足が見込まれています 。その労働力不足を移民が補っており、建設、農業、水産業、清掃、飲食店のウェイターなどの仕事を担っており、今や移民の存在は必要不可欠となっています。
経済成長の大きな担い手にもなっているのです。
東京のコンビニの店員の外国籍の人の割合が増えているのと、同様の現象が起こっているのです。
バンコクの飲食店に行った際にはぜひ、店員同士のやり取りを聞いてみてください。タイ語以外の言葉で話しているケースが多くあるはずです。

2. 無国籍者の増加
ミャンマーや他の国の国籍を持っているが、タイでは不法滞在であったり、労働許可のみ持って滞在している両親のもと、タイで生まれた子どもたちは、多くの場合無国籍です。タイは血統主義に近い制度を採用しており、「出生地=タイ」だけでは国籍を自動的に取得できません。
原則として、親のいずれかが合法的にタイ国籍を持っている/永住権を持っている場合に限り、タイ国籍の取得が可能になっています。
とは言え、タイで生まれてしまっているために、ミャンマー国籍の取得も難しく、無国籍状態になってしまってます。
無国籍の場合、社会福祉サービスを受給できなかったり、学校に通えないなどの問題があり、社会から取り残された存在になってしまいます。【出典:GLOBE+タイ洞窟の救出から1年、無国籍の子どもたちの抱える問題

3. タイ国内での移民に対する考え方
タイ人も移民による経済効果を認識しているものの、一部の国民の間ではやはり否定的・懸念的な見方をもっている人も少なくありません。
不法滞在や労働許可のない移民に対し、「犯罪のリスクになるのでは」という漠然とした不安を持つ人は少なからずいます。また、主に都市部や国境地帯では、メディア報道の影響で「移民=危険」というイメージが一部定着しています。
タイ語を話せないことや、宗教や生活習慣が違うことで、「地域になじめない」「よそ者」という印象が、社会での移民とタイ人の分断につながっています。
過去何度も起こってきた、一方による支配や戦争、国境紛争などが尾を引いており、歴史的にみても移民に対する否定的な感情が生まれている部分もあります。

4. 子どもの教育問題
上記に述べましたが、タイには無国籍状態になっている子供が多くいます。親が不法滞在者の場合、タイに生まれた子どもが出生登録を受けられず無国籍になるからです。
2005年以降、移民の子どもたちのの公立学校での受け入れが義務化されましたが、教育現場には規模、教員、タイ語能力などのハードルが多く、まだ多くが学校に通えていないと推定されており、格差が拡大しています。
しかし、学校が受け入れ可能であったとしても、子どもたちがタイ語を話せないために授業を理解できなければ授業は受けられません。また、昼食代、制服代など、学費が無料であっても親が他の費用を払えなかったりなどの問題もあります。【出典:Humanium (English)
その結果、正式な登記をしていないラーニングセンターが多く現れ、検挙される事例が起きたり、児童労働の問題と繋がってしまったりなど、現状は複雑化してきています。【出典:朝日新聞 with Planet

 

現在行われている取り組み

Migrant Health Program
2004年からUN・IOM支援のもと、移民コミュニティ向けに医療アクセス改善、保健教育、簡易診療などの支援体制が構築され、6県・10万人以上が対象となっています。【出典:IOM(English)

タイと日本の学び合いによる移住労働者の児童の就学促進
タイ教育省、笹川平和財団、国際労働財団(JILAF)、野毛坂グローカルの4団体による移民の子どもたちへの教育支援プロジェクトが2024年に始動しました。【出典:笹川平和財団
就学促進ボランティアの育成などコミュニティの力を活かしながら、より多くの子どもたちがタイ語能力を身につけられるよう支援しています。
そして、タイ語で行われるノンフォーマルエデュケーション(非正規教育、NFE)で学んだのちに、タイの公立学校への編入を目指すプロジェクトになります。

このほかにも世界中の支援団体がさまざまな支援活動を行っていますが、依然として完全な解決には至っていません。
移民の送り出し国となっているCML3カ国の経済不安定や政情不安定により、送り出されてくる移民の数は減流どころか増えています。また「移民なしではタイ経済が成り立たない」という構造がすでにできあがっており、タイにおける移民問題はまだ終わりが見えることはないと言えます。

 

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