2026.01.08

企業マネジメント

タイ日系企業の人事制度で押さえるべきポイント 〜なぜ”日本式”の人事制度はタイで通用しないのか?

タイ拠点の日系企業の多くが、「賃金上昇」と「人材流出」という悩ましいテーマに向き合っています。

この記事では、過去10年以上タイ日系企業を支援してきたbeyond global Thailandが、単なる金額の問題ではなく、日本独自の人事制度と、タイの文化との間にある「小さなボタンの掛け違い」かもしれない、という視点を提供します。

無理に欧米式(ジョブ型)の人事制度にするのではなく、「役割(ミッション)等級」という新たな人事制度の考え方を取り入れることで、社員も会社も納得できる「ちょうどいい関係」が築ける理由についてお伝えします。

止まらない賃金上昇と人材流出。タイ日系企業が直面する課題

構造的な人手不足が、タイにおける人事制度の見直しを迫っています。 世界銀行の『Thailand Economic Monitor』の報告書によると、タイは高齢化社会へ突入しており、賃金上昇の根本的な圧力となっています。

また、JETRO『2024年度 海外進出日系企業実態調査』では、タイは現地需要の減少が響き、事業拡大意欲が後退し経営環境は厳しさを増しています。

高コスト構造かつ経営環境が厳しくなりつつある今、企業の継続的成長にはタイ人スタッフに「作業者」の枠を超え、マネジメント視点を持つ「ハイパフォーマー人材」として活躍してもらうことが不可欠です。

しかし、現実はどうでしょうか。
・タイ人マネジメントが指示待ちで、自ら提案してこない
・優秀な若手ほど、静かに辞めていく
・パフォーマンスが落ち着いたベテラン層が長く留まっている

これらは単なる給与の問題ではなく、「何をもって評価されるのか」が明確に定義されていないために起きている現象です。

なぜ日本式人事制度はタイで機能しにくいのか?

日本で一般的な「職能資格制度」は終身雇用を前提とした環境では合理的ですが、人材の流動性が高いタイでは以下の問題を生みます。

1. 「年齢」と「パフォーマンス」のギャップ
職能資格制度には、一度上がった給与は基本的に下がらない特徴があります。その結果、過去の評価の積み上げで高くなった給与と、現在のパフォーマンスとの間にギャップが生まれてしまうことがあります。

実力主義を好む若手社員から見ると不公平感につながり、モチベーションを下げる要因になりかねません。

2. 「評価理由」の曖昧さと不安
日本式の評価は意欲や協調性など、定性的な要素を重視する傾向があります。これは組織の一体感を生み出すのに良いですが、論理的な説明を求めるタイ人スタッフにとっては、「なぜ自分がこの評価なのか」が不明瞭に映ることがあります。

疑念を生まないためにも、評価の根拠を明確に伝えることが求められています。

3. 年功序列による「採用競争力」の低下
社内の年功序列バランスを重視するあまり、中途採用で優秀なスペシャリストを迎え入れようとしても、年齢や社歴がネックとなり、市場価値に見合ったオファーが出せないというケースです。

タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の2024年第3四半期の労働力調査によると、タイの失業率は1%前後と極めて低く、事実上の完全雇用状態にあるため、求職者優位の売り手市場が続いています。

結果として欲しい人材を競合他社に奪われてしまい、競争力が劣ってしまう悪循環に陥ることがあります。

 

欧米式の「ジョブ型」人事制度も、タイには少し冷たすぎる?

では、欧米式の「ジョブ型」に変えれば良いのでしょうか。

これもまた、タイの日系企業には完全にはフィットしません。欧米式は「仕事の内容(ジョブ)」を細かく決めて、それに対して給与を払います。合理的ですが「雇用契約書に書いていないのでやりません」といったリスクもあります。

日系企業の良さは、困った時にお互い様で助け合う「チームワーク」や「柔軟さ」にあります。タイの「ナムチャイ(思いやり)」の文化とも通じるこの良さを、失ってしまうのはもったいないことです。

タイに馴染む人事制度「役割(ミッション)等級」とは

そこで提案したいのが、「役割(ミッション)の大きさで評価する」という考え方です。

これは「年齢や過去の実績」ではなく、「今、チームの中でどんな役割を担っているか」に焦点を当てる方法です。ジョブ型ほどガチガチに固めず、期待する「役割の範囲」を伝えます。

1. 「チャンス」と「納得感」が生まれる
「リーダーの役割」を任せるなら、年齢に関係なく、その役割に見合った報酬を用意する。逆に、役割が軽くなれば、報酬もそれに合わせる。

「役割=報酬」というシンプルなルールは、若手にとっては「頑張ればチャンスがある」という希望になり、ベテランにとっても「今の自分に合った働き方」を見直すきっかけになります。

2. 「柔軟さ」を残しながら「クリア」にする
「あなたのミッションは、このプロジェクトを成功させ、チームをまとめることです」といった伝え方をします。

これなら、「役割を果たすためには、当然みんなを助けることも大切だよね」というメッセージが伝わります。タイ人が好む「何をしてほしいかの明確さ」と、日系企業らしい「助け合い」を、無理なく両立できるのです。

3. 組織の「新陳代謝」を促し、健全な状態を保つ
役割を基準に評価することで、社内のポジションは「一度座ったら降りられない椅子(既得権益)」ではなく、「その時々のミッションを果たすための場所」へと変わります。

役割を果たしていれば報酬は維持されますが、役割が変わったり期待される成果が出せなくなれば、役割の見直し(報酬の適正化)が行われます。

人事制度構築のポイント: 大切なのは「タイ人スタッフと一緒に考える」こと

制度という「形」を作ること以上に、そこに至る「プロセス」が重要です。

日本人だけで決めたルールを押し付けるのではなく、タイ人のキーマンやスタッフを巻き込んで、「私たちの会社をどうしていこうか?」と一緒に考える。そんな時間が、実は一番大切なのかもしれません。

そのきっかけ作りとしておすすめなのが、従業員サーベイ(意識調査)や1on1面談で”本音に耳を傾ける”ことです。

「今の評価についてどう感じている?」「将来についてどんな不安がある?」

そんな彼らの本音に耳を傾ける姿勢こそが「会社は自分たちのことを考えてくれているんだ」という信頼につながります。

弊社beyond globalが人事制度構築をご支援する際は、タイ人スタッフに”本音を聞く”面談を行います。駐在員の皆さまとタイ人スタッフの両方の意見を踏まえ、組織の軸と”生きた”人事制度を構築していきます。

この”本音を聞く”ステップがあるからこそ、タイ人スタッフが「自分たちの意見が反映され、自分たちで変えていけるんだ」という前向きなマインドセットに切り替えることができます。

▼ 【製造業 事例】タイ人主導で人事制度構築から運用改革まで行った現地化施策
(Kojima Industries Asia Corporation Ltd. 様)

※ beyond global 事例インタビューより。事例の続きは弊社Webサイトからダウンロードいただけます。

 

まとめ:人事制度は、社員に信頼をもたらす重要なメッセージ

人事制度は、あくまで社員と「どんな関係を築きたいか」というメッセージを伝えるためのツールです。「年功序列」から「役割」へのシフトは、「あなたの今の頑張りと責任を、ちゃんと見て評価します」という、会社からの約束でもあります。

もし現場で「なんとなく噛み合わないな」と感じることがあるとしたら、過去の慣習として残っている「モノサシ」が、今の社員たちの気持ちと少しズレてしまっているだけかもしれません。大切なのは、そのズレに気づき、合わせようとすること。まずは組織の状態を知ることから始めてみませんか。


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beyond global では、タイ日系企業の現地化や、人事制度構築・運用、マネジメント育成支援のために、毎月10社限定で個別相談会(無料)を実施しております。 ぜひ下記のリンクよりお申し込みください。

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