私たち日本人にとって、抹茶といえば「京都の名産」であり、老舗茶屋のブランドを格式高く楽しむもの、というイメージが強いかもしれません。しかし今、タイで起きている抹茶ブームは、そんな私たちの常識を覆すほどの熱気を帯びています。「流行っているな」と横目で見つつも、実際に試したことはないという方も多いのではないでしょうか。
驚きの体験:ナッツ?海藻?日本人も知らない抹茶の「解像度」
「物は試し」と、筆者も抹茶スタンドに足を運んでみました。店頭には、茶筅(ちゃせん)を使ってシャカシャカと抹茶を点てる店員さんの姿が。茶筅を使って抹茶ラテを提供している日本のカフェに馴染みがなく、その本格さに圧倒されます。メニューを見ると更に驚きが。お茶で有名な「SHIZUOKA」「KYOTO」といった文字が一緒に並ぶことは想像に容易いですが、「YAME」「KAGOSHIMA」といった、お茶好きではないとなかなか馴染みのない産地の名前や、「SAEMIDORI」「OKUMIDORI」といったお茶の品種の名前が当たり前のように並んでいます。
日本のもののはずなのに詳しくない自分の存在が後ろめたく感じてしまいます。
そうしてうろたえていると、タイ人の店員さんが「どんな風味の抹茶がお好みですか?」「おすすめは●●です。こちらはナッツのようなクリーミーさがあり、こちらはSeaweed(海藻)のような風味が特徴で…」と語りかけてきます。
抹茶なのにナッツや海藻??そんなことはあり得るのか?と頭の中は疑問符でいっぱいです。
頭にはてなマークがいっぱいのまま、おすすめの抹茶で抹茶ラテを作ってもらい、ナッツとは…海藻とは…と自問自答しながら抹茶を味わい悶々とした、というのが筆者のタイでの抹茶初体験でした。

タイ流の抹茶の楽しみ方
「ただの一過性の流行ではないか?」「本当に味の違いがわかっているのか?」
そんな疑念を抱きつつ、現地の20代の若者に話を聞いてみると、返ってきたのは意外なほど解像度の高い答えでした。
「八女は苦みが少なくて、うまみがつよくておいしいですよ」
「Peace Oriental Teahouseという抹茶専門店がおいしいです。値段はすごく高いですが」
といったコメントが。
筆者よりも遥かに抹茶のことを理解し、楽しんでいる彼らの姿に、これまた後ろめたさを感じました。
こういった体験を踏まえて、タイ人の抹茶ブームについて更に興味を持ち、展示会「Thailand Coffee Fest」に足を運びました。そこで見えてきたタイ流の楽しみ方は大きく2つあります。
・シングルオリジン
日本では、老舗のブレンド抹茶を楽しむというのが主流ですが、タイでは、産地や品種で抹茶を楽しむスタイルが定着しています。
日本人でもあまり知られていないと思いますが、抹茶は品種や地域、さらには同じ地域の茶園によっても、味が大きく異なっています。シングルオリジンでの飲み比べを通して、筆者が最初に驚いた「海藻風味」「ナッツ風味」といった風味もよく理解できました。
コーヒー愛好家が豆の産地や焙煎を選ぶように、彼らは抹茶を「フレーバー」として捉え、品種ごとの「海藻感」や「ナッツ感」を敏感に感じ取っているのです。
・タイらしい自由なブレンド
日本の伝統にとらわれない自由さもあります。日本では、伝統的な和菓子とともに提供される印象が強い抹茶ですが、タイでは水で溶いた抹茶をココナッツウォーターやオレンジジュースで割るなど、日本人なら躊躇しそうな組み合わせも、南国ならではの爽やかなドリンクとして昇華させています。
抹茶大流行のタイの社会背景
なぜこれほどまでに抹茶が受け入れられたのでしょうか。そこにはタイ社会の文化背景と、その興味深い変化が見て取れます。
タイ人のドリンク文化
タイ人はそもそも外出先でドリンクを飲むことが大好きです。一年中熱い気候の影響からか、味の濃い味付けのタイ料理によく合うからなのか、冷たくて甘いドリンクを売る屋台が昔からあり、現代では、タピオカブーム、プレミアムタイティーブーム、スペシャリティコーヒーブームときて、ヨーグルトドリンク、抹茶、中華系ティースタンドなどがしのぎを削っています。
流行が大好き:「映え」と「体験」を重視するライフスタイル
タピオカ、スペシャリティコーヒーに続くトレンドとして、茶筅で点てる「パフォーマンス」や美しい緑色は、TikTokなどのSNSとの相性が抜群でした。新しいものを積極的に取り入れる彼らの好奇心の強さが伺えます。
健康志向、甘さ控えめのデザート
かつては「砂糖たっぷり」が当たり前だったタイのドリンク事情ですが、近年は劇的に変化しています。カテキンやテアニンといった抹茶の健康効果が認知され、「砂糖なし(No Sugar)」や「甘さ控えめ(Less Sugar)」を好む層が急増しています。グリークヨーグルトの流行なども含め、健康への意識は確実に高まっています。

まとめータイの抹茶ブームからタイ人を理解する
タイの抹茶ブームは、単なる一過性の流行ではなく、そこには、「良いものをマニアックに探求する知性」と、「伝統を自分たちの好みに合わせて自由にアレンジする柔軟性」という、現代のタイ人を象徴する価値観が表れています。
筆者も最初は理解できませんでしたが、「タイ人の抹茶ブームは理解できない」と敬遠するのはもったいないと、タイ在住日本人の方にお伝えしたいです。ぜひ一度、職場の同僚と話題の抹茶ドリンクをシェアしてみてください。タイ人のライフスタイルや、抹茶のアレンジの柔軟性などから、タイ人の感性を体験できる貴重な機会になるはずです。
アソーク駅スカイウォーク直結インターチェンジビルUL階にあるMatcha Times Asokで気軽に日本の抹茶を楽しむことができます。
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