通訳が大失敗で見つめなおした外国語会話の要
タイに来た方は、それが生活であれ仕事であれ、タイ語や英語を多かれ少なかれ使っているかと思います。また、最近ではバンコクでもビルマ語や中国語を耳にすることが増えています。言語や程度に違いがあるにせよ、母語が異なる方とのコミュニケーションは、タイをはじめ海外に一定期間以上いる方の殆どが意識することではないでしょうか。私は、韓国語での話ではありますが、21歳で勉強を始めて数年後には裁判所・グローバル企業・プロゴルフトーナメント等でも通訳をしていたので、語学にはある程度深く向き合った方だと思います。今回は、そんな私が後にも先にもないほどの大失敗から得たことについてお話ししたいと思います。
それは、ソウルの日本大使館時代のことです。私は、研究職でしたが、館の幹部である大使や公使が韓国側の大臣や国会議員等と会うときによく通訳に入っていました。「上手い」と言われ、順調に経験を重ねていた宮仕え初期のある日、「今回は原稿あるから楽なはず」と言われていた時にやらかしました。通常は私を入れても3~5人程なのが、その時は日韓双方の議員団及び随行員、加えて報道各社が居並び80 人くらいはいたでしょうか。そんな場は初めてで、「こんなの聞いていない。カメラまである!」と会場に入った途端ガクブル。日本側団長の某議員(後に首相)は私に日本語原稿を渡しながら「時間が押しているので、結構飛ばします」と。私、益々ガチガチ。当時、政治・外交関連で紙があれば初見でも読むスピードで訳せたので、自らを落ち着かせようと「読むだけ、読むだけ」と心で唱えましたが、読む/落とす箇所のすりあわせもないまま飛ばされては、日本語でもついて行けず。読むことに意識が行き過ぎて、いつもならできていた耳から入ったことを訳すというのもできず。内容的には簡単だったはずなんですけどね、ボロボロ。とどめを刺すように、原稿には韓国の芸能人の名前がカタカナ表記で複数。そもそもその人の名前をハングルか漢字で知らないと長短母音やn/ngの区別等正確には訳せません。自信を持てない私は、モゴモゴ。声が小さく、発音も曖昧になればなるほど、会場はザワザワ。負のスパイラルを高速降下で奈落の底に。「俳優の誰?」「あの通訳大丈夫?」ザワザワザワザワザワ~。見かねた上司が代わってくれ、私は途中退場。チーン。
いや~凹みました。でも、それ以上ない失態を晒し、殻を破ったという自発的なものではありませんでしたが、殻が木っ端みじんに砕け散って、立ち直りは案外早く、清々しいほどに開き直れました。私に任せた上司が悪い、とも(笑)。でも、そのように気を取り直すと、敗北理由はあくまで自分の意識や姿勢だったと見え、その後の糧になりました。
要は、
(1)まずはとにかく聞く。話者の発言に集中すること。
(2)あまりに無理な場合は、適当に誤魔化そうとせず、正直に訊き返すこと。
(3)声は相手にはっきり届く大きさと明瞭さがあること。
モゴモゴでもボソボソでも、そもそも聞こえにくいと、それだけで不信や不穏な空気を生み出し、聞き手の聞こうという気持ちも削いでやり難くなります。多少怪しくてもはっきり言葉を発していると、とりあえずどうにかなるものです。
(4)自信。その場にいる自分を信じること。
それによって気を動転させないで会話の流れや場の雰囲気を掌握すること。
と、外国語云々以前に、会話としての基本が、外国語会話でも大事になってくるということを大失敗から痛感し、それ以後より多くの人やカメラが押し寄せる場でも平気になりました。
また、結果的に成長できたと思えるようになったことで、上司にも、一度ドカンと失敗させてもらったことを感謝するようになりました。もちろん、その場に必要な語彙力などもありますので地道な努力なしでも通用するかというとそんなに甘くはないですが、件のような姿勢が効くのは、通訳に限らず、自分が流暢ではない言語で会話する場面でも感じています。お試しあれ。
<本記事はチャオプラヤー・タイムズ 「南洋茶話2ndシーズン」第1回を許可を得て引用・転載しております。>